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昭和28年11月 さらばラバウル
中島春雄は山本組へ配された。『坊ちゃん社員』の脚本をもらい、セットへ行った。とある会社の正門、守衛2が役だ。
主役、坊ちゃんな社員の小林は同僚の川口と会社を訪問。アポ無しなので、当然入れてもらえない。川口が得意の話術で守衛1の気を引く。そのスキに、小林が身を屈めて正門の突破をはかる。が、気付いた守衛2が襟をつかんで引き戻す。
また、セリフは無しか・・・中島は黙して頷いた。うまくいけば、少し顔が写るだろう。
リハーサルが終わり、いよいよカメラが回る本番だ。
「はい、スタート!」
監督の号令でカチンコが鳴った。
小林が身を低くして正門を抜けようとする。中島の守衛2が気付く。
守衛2が右手を伸ばし、小林の襟をつかんだ。が、本番だけに、小林がさらに行こうと大きく暴れた。
中島の守衛2は左手で小林のベルトもつかんだ。米俵を横に抱えるように小柄な小林を吊り上げた。
あわあわ、小林が情けない声を発し、空中で手足をばたつかせた。のっしのっし、中島は正門の外まで歩いて、やっと小林を地面に降ろす。
「カット!」
監督の山本が大笑いで号令をかけた。脚本に無い動きだが、喜劇的展開は歓迎だ。
「キングコングかよ」
小林があきれた顔で中島を見上げた。
「柔道では、あそこからひっくり返す投げが加わるよ」
にやり、中島は胸を張った。海軍で鍛えた体、柔道は二段だ。
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