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山間の未舗装路をバスが行く。ガタンゴトン、右へ左へ揺れた。揺れる中、斥候2の上田が中島に話しかけてきた。
「聞いたか? このシャシン、制作中断になるかもしれないって、さ」
古い映画人は、映画をシャシンと呼ぶ事がある。映画が活動写真と呼ばれていた時代の名残を示す言い方だ。
「中断?」
「本来なら、今頃は完成してなきゃいけないんだ。これまでに撮った分で仕上げろ、と会社から催促されてるらしい」
へえ、中島は生返事だけ。
ポケットから丸めた脚本の抜粋を見た。『七人の侍』は3人の斥候の場面だけでも、かなりの分量だ。しかし、黒沢作品の場合、脚本の分量と完成フィルムの尺数は一致しない。
4年前、中島は黒沢作品『のら犬』に出演した。が、中島の出演場面は完成したフィルムの中に無かった。編集で場面ごとカットされてしまったのだ。
同じく『のら犬』に出演していたのが三船敏郎、その時は2年目の新人だった。今日はバスの最前列に座っていた。すでに、日本映画界で押しも押されもせぬスターとなっている。この『七人の侍』でも主役級だ。
中島は振り返り、ちらりと三船を見た。こちらは未だに大部屋俳優である。
この年、三船敏郎は33才。軍でカメラマンをしていて、そのつてで映画界に入るきっかけを得た。俳優志望でなかったのに、俳優として才能を爆発させていた。
「おれが出る場面を撮り終えてからなら、何が起きても良いさ。完成したフィルムに俺の姿が残っているなら、なお良しだ」
はあ、中島はため息をついた。ふははは、上田は笑いを返してきた。
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