昭和28年8月 七人の侍

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 御殿場のセットは村の道を塞ぐ馬防柵である。高さは5メートル、幅は10メートル、太い木で組んである。なだらかな斜面の下にあり、一部ながら村の家も建てられていた  村のメインとなるセットは世田谷の撮影所近くにある。この馬防柵では、多数の騎馬がからむシーンが予定されていた。馬を都内に移動できないので、ここに村の一部を建てたのだ。  セットに着き、スタッフはキャメラや照明の準備。キャストは衣装を着ける。中島は不精ヒゲもそのまま、ぶ厚い毛皮の陣羽織な野武士の衣装を着た。大刀は背負う、腰に差すには長物だった。 「やっぱり、まだヒゲが薄いなあ。もっと濃いのにしてよ」  黒沢監督がメーク係に指示をとばした。  付けヒゲが何種類か試され、最後に加藤清正ばりのごわごわしたヒゲを付けた。 「うん、とても強そうだ」  監督のオーケーが出た。  ようやく、柵の前に斥候が3人揃った。斥候1は横綱の土俵入りなら露払いに当たる役、セリフ回しは横綱の斥候2がする。  さて、3人の斥候は身を屈め、柵に沿って歩く。中ほどで斥候1は立ち止まり、柵の木に手をかける。ぐぐぐ・・・力を込めるが、柵は揺れもしなければ軋みもしない。 「素人の造りじゃねえ、村のもんが自分でやれるはずもなし。誰か、造り方を教えたやつがいるに違えねえ」  斥候2が柵の頑丈さを分析して言った。斥候1はしびれた腕を振り、頷くしかない。 「あっ、あれ」  斥候3が柵越しに村の中を指差した。刀を担いだ菊千代が歩いている。 「違う、あいつじゃない」  斥候2は否定した。
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