昭和28年8月 七人の侍

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 黒沢はカメラの後ろへ行く。  スタート! 監督の号令が響いた。  カメラから見て、右手に斥候1、左手に久蔵。二人の間は60センチほど、刃をつぶした模造刀であるが、当てずに切り下ろすのは難しい距離だ。  斥候1が動いた。背負った刀の柄へ、ゆるりと右手が行く。  びゅっ、久蔵が抜いた。どっ、斥候1の左肩を打ち、腹へと袈裟懸けに切り下ろす。  むう、斥候1の体は朽ち木のように倒れた。  ストップ、カット! 監督の号令が出た。でも、カメラの横で頭をかかえてしまった。 「ほら、当たったぞ。痛かっただろう」 「まあ、ちょっとね」  心配する宮口に、中島は左肩をもんで答えた。  ここで、毛皮の陣羽織の意味が理解できた。模造刀がまともに当たっても、ぶ厚い毛皮がガードしてくれるのだ。 「当たった・・・か。刀が肩に当たって、一瞬止まった。あれは菊千代の剣法だよ。久蔵は達人なんだから、刀は止まらず、すぱっと切り抜けてほしいなあ」 「すぱっ・・・とね」  宮口は刀の振りを再現した。相手に当たってしまうと、刀が止まるのは必然だ。 「じゃあ、こうしよか」  宮口は右足を引っ込め、左足を半歩前に出した。普通なら、刀を横に薙いで切る足の位置だ。が、右片手で抜刀して、中島の右肩から反袈裟懸けに切り下ろす。そして、自身の右へ、カメラ側へ刀を逃がした。刃が当たらずとも、切り口はカメラの死角に入っている。 「おおっ、不意打ちぽくて、良いねえ」  黒沢はご満悦の顔。ひとつの演技にダメが出ても、すぐ次の提案ができるのが良い役者の条件だ。
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