昭和28年8月 七人の侍

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 監督がカメラの後ろへ行った。助監督が合図、カチンコが鳴った。  久蔵と斥候1が対峙する。  斥候2に促され、斥候1の右手が動いた。と、久蔵が抜刀、斥候1を右肩から反袈裟懸けに切り下ろす。  斥候1は声も無く倒れる。  草に顔をうずめ、中島は事態の推移を待つ。脚本では、木の上から菊千代が飛びかかり、斥候2を取り押さえる。逃げ出した斥候3を、久蔵が追って切る。 「オッケー、カット!」  監督の号令が飛んだ。  3つ数えてから、中島は身を起こした。ぴしっ、宮口の刀が当たった瞬間、肩に軽い衝撃が来た。もっと強い当たりだと、顔に出ただろう。脚本では、訳も分からず倒れる事になっていた。それらしい演技ができたようだ。  あとは、この場面が編集で切られない事を祈るだけだ。  8月23日、ソビエト軍は量産型原子爆弾RDS-3Tの実験を行った。爆発力はTNT火薬40キロトン以上、広島型原爆の倍以上だ。    8月26日、アメリカ軍横田基地にB-36爆撃機の編隊が展開していた。朝鮮戦争の休戦後に発動されたビッグスティック作戦である。  B-36は主翼の幅が70メートルもある巨大な戦略爆撃機、量産型原子爆弾Mark6を搭載して太平洋を無着陸で横断飛行できた。アメリカ本国から、原爆を直に日本へ空輸できる時代の到来である。
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