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昭和28年9月 太平洋の鷲
中島春雄は本多組に配属となった。『太平洋の鷲』は山本五十六を描く大作である。ドラマ部分は撮り終えていて、見せ場となる戦闘場面の撮影に入ったところ。
長さ100メートル、幅は20メートル以上、巨大な空母のセットが東京湾に面した海岸に組まれた。実物大の零式戦闘機、97式艦爆が並べられて、本物の空母のよう。昭和17年の『ハワイ・マレー沖海戦』でも同等のセットが組まれたが、資料不足からアメリカの空母の写真を元に組んでしまい、完成試写では物議をかもしたと云う。今回は、ちゃんと日本の空母の資料をそろえてセットが組まれた。
中島の役は甲板員、元海軍の経験が買われての起用だ。
山形に生まれ育ち、14才の時に横須賀へ出て海軍に入った。飛行機乗りを志望していた。予科練に入って、いよいよと言う時に終戦、軍艦に乗る機会は無かった。映画の中とは言え、甲板に立つ気分は爽快である。
三船敏郎も『七人の侍』を抜けて、ここでは飛行隊長役を務める。終始落ち着いた口調、ベテランパイロットの雰囲気を出す。ただし、菊千代のヒゲはそのままだ。これを終えたら、また時代劇の世界へ戻らねばならない。
監督の本多猪四郎は42才、黒沢明より1才下ながら、落ち着いた雰囲気だ。スタッフを信頼して、黙して準備ができるのを待っている。
セットは艦首を南に向けていた。右舷側からカメラを向ければ、左舷に広がる海原と水平線まで撮れる。向こう岸の千葉県沿岸まで見渡せる日は、冬や台風一過の時に限られ、そう多くは発生しない。
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