昭和28年9月 太平洋の鷲

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 甲板に飛行士と甲板員が整列、出撃前の場面。艦橋に艦長らが並び、出撃前の訓示を行う場面。  ぱぱぱっぱ、ぱー・・・  ファンファーレが鳴り響いた。甲板員らは笑いをこらえ、整列を乱すまいとする。  艦長となりの士官役が双眼鏡を手に、右舷方向の様子を見た。 「各馬、一斉にゲートイン。間も無く出走でありまーす」 「よーし」  ベテラン役者の軽妙なアドリブ、NGとはならず、そのまま普通にカットの号令が出た。  この空母のセットは、東京品川の近く、大井競馬場の東側の海岸にあった。後にモノレールが建設される場所である。セットの右舷近くには厩舎が並び、甲板から競馬場のコースが一望できた。  次は、甲板の両側に甲板員が整列した。出撃の場面だ。  ぐむむむむ・・・電気モーターで零式戦闘機のプロペラが回る。  中島は首をひねり、また背筋を伸ばした。本物の零式のエンジン音を知る者には頼りない音だ。フィルムには、後から元気の良い音が入るはずである。  排気管のアップ撮影では、発煙筒で煙を出す。自転車用の手押しポンプで煙を加速した、小道具係も大変だ。  三船敏郎の隊長が零式に乗り込み、艦長と甲板員に敬礼を投げた。 「帽ふれーっ」  号令で、中島は帽子を取って振る。並んだ甲板員役も帽子を振る。  零式は脚のロープで牽引された。5人がかりで引っ張り、ゆるゆると艦首の方へ動いた。10メートルほど進んで、カットとなった。 「帽ふれーっ」  また号令がかかった。中島はさっきより大げさに帽子を振る。  2列目の零式がロープに牽引されて動いた。
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