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撮影所の入り口をくぐり、中島が向かったのは木造平屋の建物。入り口の看板は「全映連・演技協社」と墨書きされていた。いわゆる「大部屋俳優」たちが所属する会社で、ここから各撮影現場へ派遣される建前である。
「お早うございます」
元気な声で玄関を抜け、事務前の長いすに腰を下ろした。時計は7時を回ったばかりだ。
「やあ、いつも早いね」
白髪頭の事務長が麦茶のヤカンを手に出迎えた。
中島は手であいさつして、ヤカンから麦茶を湯飲みに取る。カラカラとヤカンの中で氷が鳴った。
「中島くん」
事務長が呼んだ。こういう時は仕事がある。
「9時から、第3ステージの4、安西組ね」
「安西さん・・・すか」
監督の名前が組の呼び名になる、これは撮影所の習慣だ。第3ステージは、主に時代劇用のオープンセットである。武家屋敷、町人街、長屋に掘り割り等が造り込まれていた。
配役票をもらうと、作品名が書かれてない。となると、何かの撮り足しか、撮り直しだろう。
8時が近くなる。役者の卵たちが事務所にあふれ、中島は立ち上がった。下駄を鳴らして撮影所の奥へ、第3ステージの小屋へ向かう。
ステージ小屋の入り口の立て看板を見た。安西組の予定が貼られている。
「お早うございます」
元気な声で存在をアピール、小屋に入った。
安西組のセカンド助監督、納谷が人の集まりをチェックしていた。
「やあ、中島くん、今日はよろしく。君は・・・河津さんのふき替えだ。河津さんが来たら、衣装を合わせて」
「ふき替え、ですか」
ふん、中島は鼻息をついた。ふき替えはアメリカ映画で言うところのスタントイン、またはスタントマンの事。顔は写らないが、その他大勢の役ではない。
ならば、と小屋を出てセットへ行く。青空がまぶしい。
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