私にテストで勝ったら。

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私にテストで勝ったら。

幼なじみのヨリコは、クラスで一番の秀才である。 愛嬌はないが、整った顔立ちと上品でクールな雰囲気があり、男子にも人気があった。 家が近所で幼稚園のときからずっと一緒だった僕は、いまの高校生活におけるヨリコのどの女友達よりも、彼女の良き理解者であるとの自負があった。 「あんたはいつまでバカなのよ」と彼女は僕に言った。でも、そんな汚い言葉を吐ける相手は僕くらいのものだから、言われても全然不快ではなかった。 「ねえ、聞いてるの」と彼女が詰め寄ってきた。サラッとした髪からシャンプーのいい匂いがだたよい、僕はドキドキした。自分の気まずさを紛らわすため、なにか喋らなくてはと焦った。 「だって、勉強するやる気がないんだ」 「将来の夢とかないの?」 「ヨリコはあるの?」 と聞き返して、いままで僕ら二人はたくさん会話をしたけど、お互いの夢の話をしたのははじめてだということに気付いた。ヨリコは新聞記者になりたいのだと言った。記者になって、世界中を駆け巡りたい、そのために教養と語学力を身につける必要があるのだと語った。 僕は急に弱気になった。ヨリコが頭が良いのは昔からだが、そう遠くない将来に、彼女は僕の手の届かない遠いところへ行ってしまうのだと思うと、気が滅入った。 「僕も勉強頑張るよ」と強がりを言うので精一杯だった。 「もし、次のテストで私に勝ったら、一緒にお風呂入ってあげてもいいよ」 しばらく、彼女が何を言ったのかを理解するのに時間がかかった。
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