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大学病院の入院棟の夜は酷く、怖かった。
そこが怖いとかではなくて、なんというか死ぬとわかった途端ここでは死にたくないという気持ちが強くなったのだ。
家族と和気あいあいと話す人。
友達がお見舞いに来てはしゃいでる人。
さまざまな人がいた。そしてさまざまな人が病気や怪我を治して退院していったのだ。
そう、ここは助かる病人がいる助かる病院なのだ。
僕のような死を背中にしょって歩いているような人間は近づくことさえおこがましい。
だから夜に病院を歩くようになった。
それでも昼間の明るさが残っているようで僕はなんだが居心地が良くはなかった。
しばらく歩くと喫煙所の部屋に電気が灯っていて、そこに人がいることが分かった。
ただ、この時間に出歩くことは禁止だし、喫煙所なんてまして夜にはダメなはず。
それを堂々と、電気をつけて誇張する人がいるなんて。
僕は疲れたようにわらった。
最後なら何をしても文句は言われまい。
せっかくだし、タバコの1本でも貰って人生初のタバコを吸うとしよう。
部屋の扉を少し開いて、光が漏れる前にすぐに部屋に入るとそこには3人ほどの人がタバコを吸っていた。
だが、こちらを見る様子もなく、気づいているのか分からなかった。
ただ3人とも不思議な感じがしたのはよく覚えている。
1人はタバコを箱から出すとむしゃむしゃと食べ始めるのだ。
食べ終わると、すっと微動だにせずに立ち、またすぐタバコの箱から1本取り出してむしゃむしゃと食べ始めた。
2人目はタバコを口にくわえると、ライターの火をタバコにつける。
つけるのだが、タバコに火がついても、それでもライターは離さなかった。
タバコは勢いよく燃えてあっという間に燃えかすとなった。
そしてなくなるとまたタバコを取り出し同じことを繰り返すのだ。
3人目はタバコを吸ってはいなかった。
箱から出したタバコを口にくわえ、火もつけずに床に落とし何度も何度も踏みつけていた。
気が収まると、またタバコを口に運んでいた。
僕は恐怖やら理解できない不安からとてもこの場にはいられないと思い、急いで部屋を飛び出し、自室に戻った。
ここにいてはいけない。そう思った。
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