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世界が秋に染まる頃、暖かい季節は終わりを告げる。
僕は夏が嫌いだし、これからも好きにはならないだろう。
これからがある、なら話は別になるだろうが…。
「君、死ぬ気はあるかい?」
そう初対面の医師から言われた時、僕は何も感じなかった。
普通なら、大抵の人は怒るだろう。
怒らなくても、少なからず嫌な気持ちにはなるはずだ。
だが、僕はならなかった。
僕が人と違うとか、感情がないとかそういう話ではなくて…僕は末期の癌で治る見込みがないことを医師も、そしてなにより僕自身が知ってたからだ。
死ぬと分かっていた僕にそんな質問されても困るものだ。
返答はどうしたものか。笑ってしまう。
死を覚悟している訳では無いが、助からないと知っているのなら、あがきようがないではないか。
受け入れるしか…それしか、僕にはないじゃないか。
僕は生きながらにして死んでいるようなものだった。
だからその質問は滑稽で、僕にとってはギャグのように思えてしまう。笑ってしまうよ。僕はね…。
…助け、られないだろ。
なら、それなら僕は、こう答えるしかないじゃないか。
「死ぬ気は、あります。」
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