5.百数えて

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5.百数えて

 相棒がお先にあがってしまっても、僕には山本さんちのみんながいてくれたので、退屈もしない。寂しいと思うことも、あんまりない。  ただ少し、時間の経つのをゆっくりに感じただけ。  百個目の記憶を待って、また人に転生する期待に雫を引き締めながら、落下を繰り返した。  上のお兄ちゃんと一緒にシャワーの中ロックを叫び、智子婆ちゃんと一緒に演歌で拳を回し、ヨウちゃんとお母さんのアンパンマンマーチにコーラスで参加し、毎日を落下していた。次、人になるまでどれくらいの時間がかかっても、きっとそのための時間なのだと思った。  いち、にい、さん、しい。  ごーお、ろーく。  ヨウちゃんとお母さんの声が交互に聞こえることもある。ヨウちゃんだけだと熱がって早口になる。百を数えて、ヨウちゃんとお母さんはお風呂をあがる。  僕はこれまでにいち、にい、さん、しい、で、九十九まで数えた。残す百。その記憶に重なったら、僕も、あがれるんだけど。な。 「ちょっと、あがるまで待ってよ」  珍しく、その日上のお兄ちゃんが夜にお風呂に浸かっていた。 「ヨウちゃん明日早起きしないといけないから、一緒に入れてあげて」 「やだよ、俺、わかった今すぐあがるから」 「もー、コウちゃん、なにも恥ずかしいことないじゃない」 「そんなんじゃないけどさ」  ピットン、ピタ、ピッチョン、ピチヨン。ああ、僕は小学生だった。ピトン。音が、クッキリと聞こえる。あと、何回。これが最後。山本さんちのお風呂で、聞くことのできる最後の音。次に聞くのは、産声になる。いや、もうずっとそうだったのかな。 「お兄ちゃん、ごめんね」 「いいよ、謝るなよ」  二人で窮屈そうに、ヨウちゃんは大人しく膝を抱えて浸かってる。 「水鉄砲していいぞ、アンパンマンも」 「ううん」 「そっか、じゃぁ、百数えよっか、十個ずつな」 「うん」 「いーち、にーい」  僕は小学生だった。兄は嫌がりながらも最後は入っていいと言ってくれたのに、僕は、拒んだんだったな。  ヨウちゃん。偉いな。僕も次は拒まないぞ。お兄ちゃんと一緒に、お風呂で百まで。  じゅういち、じゅうに、じゅうさん。 
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