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僕らは元々人だった。
雫になって連鎖する落下の中で、また人として転生するための記憶を集めている。
数は百。
雫になって落下を繰り返しながら、人の声、人の営みに記憶の半分が重なったら、トクンと命の鼓動がして次の景色にトブ。
集めた記憶を内包して着地に音色を踊らせながら、落下を繰り返す。
数が増えてくると一ヶ所での滞在時間が長くなるので、景色や往来する人々に愛着もわいてしまうが、人になるため僕らは別れのジャンプを繰り返す。
僕はとうとう集めた記憶が九十九。
残りはひとつ、となって今僕は山本さんちのお風呂にいるのさ。
上のお兄ちゃんは朝にお風呂に入る。バスタブの蓋をいつも半分動かして重ねるから、僕は落下のタームが短くって忙しい。
ピトン。ピットン。パピット。ピチョン。パッチョン。
「落下の音色が豊かだね」
ずっと一人だったんだけど、今日から話し相手ができた。
「もう九十九個集めたからさ」
「凄い!! 残りひとつなの? じゃぁ、次は人なんだ、雫じゃなくって」
「そう。次はもう落下じゃないんだ。人として産声をあげるんだ。百色の音色で」
「私はまだ二十三個なの」
「まだまだこれからだな」
「そうなの。次へトブまで少しの間かもしれないけど、よろしく先輩」
締まりの緩いカランからタタタタ落ちる雫と二人、山本家の声と営みに、記憶の半分を待っている。
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