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3.水鉄砲がへたっぴで
お婆ちゃんが出て少し、ドタバタと脱衣所が賑やかに元気な喧騒に包まれる。
「ヨーウちゃん。自分で洗濯機に入れられたね、いい子」
「いえーい」
「あー、でもパンツで遊ぶのはまだやめないのね、悪い子」
「いえーい」
ヨウちゃんは白いパンツをクルクル巻いて頭に装着すると、
「へい、何握りましょう奥さん」
寿司屋の大将になり切って二本の指を掌に叩きつけている。
「お寿司は清潔な手じゃないとね、お風呂先にしようね」
お母さんの景子さんはヨウちゃんのパンツ鉢巻きをつまんで洗濯機に放ると、そのまま体を抱きあげてお風呂に入ってくる。
「元気いい子だね、うわ、カランに口突っ込むな!」
「やるのは知ってたんだ」
「教えといてよ、もう」
「ほーら、浸かる前に体ゴシゴシ。まーだ、オモチャ早いよ」
「先、入れとくだけー」
ヨウちゃんはバスタブに温度で色の変わるアンパンマンとドキンちゃんを投げ入れる。
「子供にとってお風呂場は遊び場なんだね」
「ああ。僕の記憶八個目はお風呂場の水鉄砲だった」
「ふぅん。お風呂場何回目?」
「四回目」
「へー、私初めてです。先輩」
「渡辺さんちのお風呂だった。田舎で虫の声やカエルの声がずっと聴こえてたな。お父さんと娘ちゃんが二人で仲良く一緒に入ってた。水鉄砲がへたっぴなのって、泣き声で言ったんだ、あの子は。それが最後に聞いた声だった。僕も人だった頃、お風呂でお兄ちゃんに水鉄砲のやり方を教わったことがあったんだ」
「へえ」
「ヨウちゃんは注射器型の水鉄砲を持ってる。馴染みの小児科でもらったんだ」
「詳しいですね」
「うん」
体を洗い終えたお母さんとヨウちゃんが並んでバスタブに浸かってる。
僕はアンパンマンとドキンちゃんを行ったり来たり。ピトン、ピッチャン。パッチャン。
「ヨウちゃん百数えてねー」
「おーう、いーち、にーい」
さーん、しーい。僕は集めた記憶をなぞりながら、百を待つ。ヨウちゃんの百の声が聞こえても、景色はそのまま。
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