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この男は亘理が居る事になれている。だからと言って恋人同士の様な甘さは微塵も感じない。
こいつが同室者なのか。
「君、山田君?」
「はい。山田ですけど。え?マジで何で会計様ここにいるんですか!?」
ッチと舌打ちが聞こえた。
糸の垂れ下がる方、左側のドアを指さして山田とやらに訊ねた。
「こっちの部屋が亘理君の部屋?」
「はい。」
恋人が俺の“運命の相手”等と言うオチでは無いだろう。
待て、と止めるこいつを無視して、左側のドアを開けた。
部屋のドアノブに糸が引っ掛けられているのが見えた。
その先は、俺の糸の先に繋がっているのは―――。
亘理は長い長い溜息をついた後
「……ちょっと、出ませんか?」
と静かに訊ねた。
「その前に、一発殴らせて貰ってもいい?」
俺の問いかけに、亘理は困った様に笑った。
「殴るにしても、やっぱり寮より人の居ないところの方がいいでしょう。」
この時に見た笑顔が、こいつの亘理の始めての笑みだった事に腸の煮えくりかえった俺は気が付かなかった。
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