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この糸を見る事が出来る人間はそれなりに居るが、こうやって触る事が出来るのはごく限られた人間だけだ。
そうすると、俺の力が残っている時間、――おおよそ8時間ほどはこのまま本物の糸の様にドアノブに引っ掛かったままになる。
何故こんな事をするのか、それは多分、自己保身の為なのだと思う。
基本的にこの糸は誰かと繋がっている。
全寮制のこの学園に入学して暫く、俺は自分の小指から伸びるその先に気がついた。
この学園の生徒会会計であるその人は多分俺の存在に気がついては居ない。
俺の縁の先にある人間が、男だったという事に驚いた訳ではない。
実際、指から伸びた糸は性別なんてお構い無しに繋がっている事を知っていたから。
この糸は、恋愛という限られた縁の為のものではないのかも知れない。そう思う事もある。
実際どうなのかは分からない。
何故俺とあの人が繋がっているのかも分からない。
あの人、小西大地(こにしだいち)は、垂れた目尻が印象的な男だ。
俺と特に接点もない。
生徒会の役員としてカリスマ的な人気を得ているが比較的フレンドリーで友人も多いらしい。
その程度のうわべの情報しか俺は知らない。
別に糸がつながっていたとして何だ。そんな気持ちだった。
それが変わったのは5月という中途半端な時期に転校生が来て暫くしてからの事だった。
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