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次の日も、その次の日も数本張り付いた糸を取った。
10分ほどで終わるその作業の後、五十嵐君に引き止められるようになった。
小西先輩は五十嵐君との時間を取られる格好となって嫌がるだろうと思っていたが、そんな事は無かった。あくまでも表面上の事だが。
五十嵐君の言うオーラを俺の家では縁と呼んでいる事、それが糸で見えること、あとは学校での些細な事、そんな事を話した。
五十嵐君は転校して以来、碌にまともな話ができなかったので、俺と小西先輩とこうやって話せて嬉しいと泣きそうな顔で笑っていた。
泣きそうな顔をしているのに五十嵐君はとても可愛らしかった。
毎日30分ほど話して自室へ戻る、その繰り返しで週末になった。
金曜の夜、小西先輩からメールが来た。
【糸の事で話があるから土曜日何時でもいいので部屋に来てほしい。】
簡潔に書かれたメールに自嘲気味な笑みが漏れる。
もし相手が五十嵐君だったら、絵文字モリモリの可愛らしいメールになるのだろうか等ととんでもない事を考えてしまい首を振った。
机の引き出しから鋏を取り出しそっと触れる。
【わかりました。10時にお伺いします。】
そうメールを返信して鋏に指を通した。
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