アダム&アダム

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「おかえり。今日も遅かったな、お疲れ様」 「ああ、ただいま、雅(みやび)」  大悟(だいご)と雅が共に暮らし始めて、一年経つ。今日は、ちょうど一年目の記念日だった。保父の大悟の給料だけでやりくりしているから、あまり豪華にはならなかったが、心を込めて作った料理が、いつもより彩りよく食卓に用意されていた。 「大悟……」 「悪りぃ、仕事急に代わってくれって頼まれて、電話する暇も無かったんだ。飯は済ませてきた。明日早いから、もう寝るな?」  そう言って、雅の頬にごく軽く口付けを落とすと、寝室に向かってしまう。 「あ……」  今日が、記念日だという事に気付いていないらしい。もっとも、記念日なんかには無頓着な大悟だから、気付かないだろうと予想はしていた。しかしこれでは、余りに冷たい仕打ちだった。 (それに……)  雅は俯く。今までは三日と開けず雅を求めてきた大悟だったが、ここ一週間ほど、残業続きでまともにキスもしていなかった。おはようのキス、おやすみのキス、行ってらっしゃいのキス、ただいまのキス。いつも触れていた唇が、頬に変わったのもここ一週間の事だ。  胸騒ぎがした。一年前に出会った時から変わらず惜しみない愛を与えてくれた大悟が、誰かに心を移してしまったのではないかと疑心暗鬼が心を曇らせ、待っていた夕食も食べずに、雅はふらりと外に出た。
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