アダム&アダム

4/7
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 翌日から雅は、何となく大悟を意識してしまい、話をするのが気恥ずかしくなった。大悟はいつものように話しかけてくるのだが、雅がドギマギと会話を終わらせて帰ってしまう。雅は与り知らぬ事だったが、そんな背中を、大悟は目を細めて、保父としてとは少し違う顔で見送っていた。  太一は相変わらず、ふたりが会う度に「ケッコンして」と声高にはしゃぐ。男性に興味などなかった雅だが、いつしかそれが心の内を占め、大悟と会うのが、紅くなった顔を見られるのが、自己嫌悪をもよおすようになってきた。  だが、幸か不幸か、明日が約束の十日目だった。雅は自宅アパートで、十日分の太一の着替えを纏めながら、感慨に浸る。  朗らかそうでいて、「ケッコンして」と言われる度に、何処か皮肉めいた笑みを浮かべていた、大悟の顔が浮かぶ。 (大悟さんくらいハンサムだったら、絶対恋人がいるに決まってる……。それに、もう会わなくなるし)  送りは、大悟と別れるのが辛くなっている自分に気付き、太一をおいて顔を合わせずに帰ってきた。しかし帰りは、どうしたって話をせざるを得ないだろう。この十日間のお礼もしなければならなかった。  幼稚園までの道のりを、重い気持ちを引き摺りながら辿る。 「叔父ちゃん!」  太一は、すぐに雅を見付けて走ってきた。事もあろうに、大悟の手を引っ張って。 「こんにちは、雅さん」 「大悟さん……」  やはり見詰められると、淡く染まってしまう頬を隠し、雅は俯いた。大悟が、そんな雅の頬に軽く触れ、覗き込んできた。 「雅さん? 顔色が悪い。どうした?」  この十日間ですっかりフランクな仲となった大悟が、訊いてくる。 「い、いや何でも……」  触れられたそこを中心に、ますます熱の上がる顔を両手で覆うようにして、雅は後ずさった。だが次の瞬間、予想出来なかった事態が起こる。  心臓に、刺し込むような激痛が襲ってきた。それは雅の持病だった。激しい眩暈と共にやってくる痛みに、視界の天地が逆転したが、大悟が受け止めてくれたようで、ごく近くに顔が見えた。思わずその名を呼んでしまい、すがり付く。 「大悟、さ……!」  朦朧とする意識の中で、大悟が車の後部座席に乗せてくれ、幾度も名を呼ばれるのだけが分かった。「もうすぐだ」「病院に」。そんな単語も断片的に聞き取れたが、再びの激痛が雅の意識を握り潰した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!