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どれくらい眠っていたのか、窓の外はもう夕闇が迫っていた。三度目の大きな発作。慣れたつもりだったが、あの激痛に慣れる事はいつまで経ってもなかった。
ふと雅は、ベッド横のスツールに誰かが座っているのに気付いた。まだはっきりしない頭で、呟く。
「姉さん……?」
しかし返ってきたのは、意外な返事だった。
「太一くんなら、お母さんが連れて帰った」
「……大悟さん……!?」
「雅さんが倒れたのを見て、ショック受けてたから、俺が責任持って看てるって言って、帰って貰った」
いつもの柔らかな笑顔とは違う、真摯な表情を受け止めきれず、雅が戸惑っている間に、大悟は続けた。
「雅さん……アンタ、心臓病なんだってな」
大悟は、家族以外が知りえる事の無い雅の病状を、聞いてしまった。何故なら、医師に「ご家族ですか?」と聞かれた際、つい「はい」と答えてしまったからだ。自分でも、何故そんな嘘をついたのか分からなかった。
医師から聞かされた言葉は、衝撃的だった。雅は、重い心臓病にかかっていて、手術をしなければ、今後も発作が起こるだろうという事だった。
それを聞いた瞬間、嘘をついた理由が分かった。自分は、誰より雅を心配し、そして──。
「雅さん……雅。アンタの事が好きだ。一緒に暮らそう」
「えっ……!?」
「嫌なら、断ってくれて構わない」
だが大悟は知っていた。太一に「ケッコンして」と言われる度に、恥じらいに頬を染めていた雅を。しばらく、強張った沈黙が落ちた。果たして大悟の予想通り、消え入りそうな声で、
「……はい……」
と返事が返ったのだった。
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