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「俺にはもう……お前と暮らす資格はねぇ……」
涙声になる大悟に、しかし雅は優しく言った。
「俺だって……男の人が来るって分かってて、電話したんだ。悲しくて、寂しくて。俺も悪かった……」
「雅……」
「それに、ここ一年、全く発作がないし。好きな人と暮らしてるって言ったら、お医者さんも、それで病状が安定してるんだろうって」
明るく声を弾ませ話した雅だったが、ふと、話題を変えた。
「誰でも良いから話を聞いて欲しくて、電話したんだけど……もう、本人に聞いて貰った。……後は……どうする……?」
後悔に涙を浮かべていた大悟だが、その羞恥を含んだ艶っぽい問いに、顔を上げた。
真っ直ぐに瞳を合わせながら、雅はなおも問う。複雑な表情だったが、大悟を責めてはいなかった。
「もう……俺は抱きたくない?」
「そんな事ねぇ!」
即座に返したが、必要以上に力んだ台詞がおかしくて、雅は思わず吹き出した。
「あ……いや、その」
数瞬、どうしたものかと逡巡した大悟だったが、やがて躊躇い無くスーツの内ポケットから携帯を取り出すと、電話帳を表示させた。その番号は先程、雅がかけた番号だった。
「もしもし。大悟です。俺、今日で辞めます」
そう言って一方的に切ってしまう。そうして、ふたりは見詰め合った。大悟がそっと、雅の頬に触れる。雅も同じようにした。どちらからともなく、ふたりは口付け合った。一週間分の溝を埋めるよう、次第に口付けは深くなる。
我に返ったように、大悟の携帯が鳴った。ディスプレイには、『アダム&アダム』の文字。しかし、鳴り続ける着信音は、やがて雅の押し殺しきれぬ嬌声に、密やかにかき消されていくのだった。
End.
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