忘れられた男

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そんな僕にも好きな人はいた。僕とは違って、とてもまぶしくて、可愛い子だ。彼女も、僕のことを忘れてしまうだけの人だったけど、一度だけ、消しゴムを拾ってくれた。僕は、彼女の記憶の中に残りたいと思っていた。 何をしたらよいか分からず、僕は毎日彼女に挨拶をするくらいしかできなかった。次の日には多分覚えていないんだろうなと思いながらも、毎日、ちょっとずつ話題や声のトーンを変えながら、彼女が飽きることのないように、何度も。何度も。 しばらくたってから1回だけ告白したことがある。彼女は、僕のことをまだ覚えていたようで、ちゃんと返事をするから明日まで待ってほしいと言われた。 次の日、彼女はまるで何ごともなかったかのように1日を過ごし、僕の「おはよう」を何も考えなしに返してきた。 僕は最初、断られたんだなと思った。だけど、すぐに否定した。だって僕が好きになった人だ。どんな返事にせよ、彼女は答えてくれる人だ。彼女は単純に、忘れてしまったのだ。同じクラスに、自分を好いている人がいて、その人から告白を受けたということを。 またそこで、嫌になった。自分の中では一世一代の告白だったのに、忘れられてしまえば、全てなかったことになる。それは友達でも、好きな人でも、家族でも同じだ。誰も僕のことを覚えていてはくれないんだ。
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