忘れられた男

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中学2年の時、僕は身長が3cm伸びた。誰も僕の身長なんて覚えていないから、僕にしか気づかないことだったけど。 だから、今年はどれくらい伸びていたのか、少し楽しみにしていた。けれど、僕の身長は止まったままだった。 他にもおかしいなと感じたことはある。僕の声はまだ高いままだった。友達は低い声になって、女子たちにからかわれているというのに。その頃から、僕は叫ぶことはなくなっていた。もう聞こえはしないとわかっていたからだ。 卒業式の日、父さんと母さんは来なかった。忘れていたから。 校長先生も、僕の名前を呼ばなかった。忘れていたから。 卒業証書なんてなかった。忘れられていたから。 家に帰ると、僕の部屋は父さんの書斎に変わっていた。机も、教科書も、シャーペンも、ねだってやっと買ってもらったゲーム機も。何もなかった。 僕はその日から、忘れられた男になった。大切にしていた人たちからも、時間からも忘れられて、僕は一人ぼっちで歩き続けた。
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