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僕はその幸せを壊したくてたまらなくなった。そんなのは簡単だ。そこに落ちている石を拾い上げて、思いっきり投げつければいい。
なのに体は動こうとしなかった。何度も命じた。壊せ。壊せと。たとえ僕が石を投げつけたという事実がすぐに忘れられ、すぐにあの家族がまた幸せになったとしても、ほんの一瞬でいい。誰の記憶に残らなくてもいい。
ようやく体は動いた。僕は、道端に落ちている石に手を伸ばした。だけど、つかめなかった。何度手を伸ばしても、その石は僕から遠ざかり、あざ笑う。お前は誰からも覚えられていない。道端に落ちている石でさえ、誰かの記憶に残っているというのに。
そう言われているような気がした。
僕は手を伸ばすのをやめた。あの家族はもうどこかに行ってしまっていた。
代わりに僕は自分を殴った。鼻血が出た。鉄の味がした。痛かった。僕は、この痛みを忘れないと誓った。
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