忘れられた男

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もうどれくらい歩いたのかは忘れてしまった。街は、僕がいたころとはすっかりと変わり、見知らぬたくさんの人たちが生きている。 ここは、命の光が強すぎる。僕は逃げるようにその場所から離れ、たどり着いたのは最近できたばかりの大きめの病院だった。ここでしばらく休ませてもらおう。 うとうととしていた警備員は僕を見ようともしなかった。あっさりと僕は中に入っていき、どこか空いている部屋がないか探し始めた。相変わらず、僕の周囲にはいろんなものが散らばっている。場所や人が変われば、散らばるものも変わる。ここは多分、お年寄りが多いのだろう。あるものはほとんど、僕も昔見たことあるものばかりだった。 その中に一つ、よく知っているものを見つけた。人から見れば、それは、片方の角だけ削れた消しゴムでしかない。だけど、僕はそれをよく覚えていた。忘れられるはずがないものだった。 僕は走り出した。そして、僕にとっては誰よりも強く、きれいな命の光を放っている場所にたどり着いた。 そこには、その人以外誰もいなかった。とっさに入口前の名札を見た。苗字は違ったけれど、下の名前は変わっていなかった。僕はゆっくりと中に入っていった。
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