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そういう事にした。男女の仲という事はいずれ探索によって明かされるだろうが、わざわざそれを言いたくない。下手すれば、自分が疑われる事もある。
「なるほど。ならなおの事、今回は……」
「ええ。あんな善い娘が、何故殺されなければならないのか。私には怒りしかありませんよ」
「全くです。店でもよく働いてくれていました。明るくて、客当りも慣れていましたし」
「そうですか。何か問題を抱えていたとか?」
「人に恨みを買うような娘には思えませんでしたねぇ」
「では、男関係で何か? あんな可愛い娘ですから、ちょっかいを出す男はいたでしょう」
「男ですか」
彦蔵は頷いた。
「それはないと思います。男の出入りがありそうには見えませんでしたし、誘ってくる客はいましたが、あけりはちゃんと断っていましたよ。勿論、しつこいようなら、私が止めていましたけども」
「なら逆恨みかもしれませんね」
「それは、何とも」
宗吉が表情を曇らせた。どうやら役人でもないのに、根掘り葉掘り聞く事を訝しんでいるのだろう。
(潮時かな……)
あまりにもしつこいと、自分に疑惑の目を向けられる一因となる。なにせ、〔きせ〕と〔福寿庵〕は商売敵なのだ。
彦蔵は礼を言って立ち上がると、宗吉に名を呼ばれた。
「もしや、ご自身で捕まえよいうという思っているんで?」
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