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あけりが殺されて、一か月と半が過ぎている。彦蔵は、大身旗本・山県家の屋根の上にいた。
この屋敷に住まう山県三郎兵衛こそ、あけりを殺した下手人であると、彦蔵は益屋淡雲に明かされた。
淡雲が言うには、福寿庵の離れで山県がさる旗本の妻と密会していたのを、あけりは偶然見てしまったのだという。宗吉は山県が密会に使う事は知っていた。故に誰も近寄らぬよう言い付けていたのだが、その時あけりは女将の頼みで買い出しに出ており、宗吉はその時に女将から伝えられたと思い込んでいたのだ。
不義密通は死罪である。山県は何としてもあけりを抹殺するよう始末屋に命じ、そして実行された。
「その外道を始末してくれるかい?」
淡雲は、その事実を伝えた上で訊いた。当然、彦蔵にそれを断るつもりは無い。ただ、疑問はあった。淡雲が商人の皮を被った、裏の首領である事は理解した。しかし、たった娘が一人殺されたぐらいで、何故そこまでするのか。一歩間違えれば獄門。しかし、成功しても淡雲が得られるものは何もないではないか。
「私もお前さんと同じでございますよ」
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