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そう言うと、淡雲は穏やかに笑った。小太りで中背。終始笑顔で人の善さそうな印象を受けるが、目の奥は笑ってはいない。それだけで、この男が裏の世界で生きてきた事が知れる。
「お前さんは、侍嫌い。私は、外道嫌い、とね」
その後、彦蔵は淡雲の話が本当であるかどうか独自に調べてみたが、おおよそ話の通りだった。あの日、福寿庵で彦蔵に話し掛けようとした、お種も同じ事を証言してくれた。また、密会はこれだけではない。山県という男は他にも人妻と密会していて、その殆どは無理矢理手籠めにした挙句、その事で脅し関係を迫っていたようだ。あけりが見た旗本の妻というのも、その口だった。これ以上ない、畜生外道である。淡雲に山県殺しを依頼したのも、そうして脅された人妻達なのかもしれない。
(やっぱり、侍ぇは嫌ぇだ)
彦蔵は鼻を鳴らした。宗吉は始末した。あけりを手にかけた始末屋もだ。二人は淡雲が依頼した的ではないが、そうしなければ気が済まなかった。残るは、山県だけである。
彦蔵は、音もたてず瓦を滑り降りた。〔鼬目天〕の渾名に違わない敏捷な動きで屋敷に侵入すると、山県を難なく縛り上げ猿轡を噛ませた。
「お前を殺す為に、俺は裏に戻る羽目になっちまった。でも、仕方ねぇよ。お前はそれほどの事をしでかしたんだぜ」
山県が真っ赤な顔でもがいている。彦蔵はそれを無視し馬乗りになった。
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