ふやける頃には

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私はお風呂が嫌いな子供だった。 シャンプーハットを被せられるのも、頭からお湯を掛けられるのも、湯船に肩まで浸かって三十数えるのも嫌だった。 なんだか我慢ばっかり。ちっとも楽しくなかった。 それでも毎日入るのは、ばあちゃんが一緒だったから。お風呂から上がったあと、タオルで頭を包んでくれて、ドライヤーで髪を乾かしてくれるの。 「さっちゃんの髪はキレイねえ。つやつやのさらさらで、とってもいい匂い。」そう言ってくれるのが嬉しかった。 「頑張ったもんねえ。シャンプーも、体ごしごしも、三十数えるのも。さっちゃん、凄く頑張ったもんねえ。」って、氷たっぷりのサイダーをくれるのも。 中学生になっても、私はお風呂が嫌いなままだった。 大好きだったばあちゃんはもう居ない。ずっと伸ばしていた髪は、部活の先輩に倣って短くしてしまった。 柴田君にからかわれてから、体型を気にして湯上がりは麦茶にした。もうなんの楽しみもなかったけれど、ちゃんと入った。 柴田君に、またなにか言われちゃかなわないし。 高校生になると、もう好きとか嫌いとか言っていられなくなった。大人っぽい香りのするシャンプーとかニキビを予防する洗顔料とか。 また長くなった髪を毎日ヘアアイロンで伸ばしてはスプレーするから、お風呂は必須だもん。それに……。 「長いほうが似合うな。」って、あいつが言うから。
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