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きっと君は気づかない
プラスチックの軽い扉が、ゴムのかみ合わせにぶつかる音は、いつも少し間抜けだと思う。
ばしゃん、とか、べしゃん、という一応きっちり閉まった感はあっても、普通のとは違って軽いから、すぐにでもぱっと開きそうなのだ。
だから、いつも少しだけ用心して洗面所と廊下の間の引き戸を開く。シャワーの音と、ご機嫌なのか少しくぐもった鼻歌……から、歌詞が付き始めて苦笑いした。
歯ブラシを取りに来て、ちょっと立ち止まった。出ていく前に、つい見咎めてしまったのは。
「……ちょっと、永太! また脱いだまま放置してる!」
『あーうん。なに?』
薄くても、一枚隔てた声はいつもよりさらにぼんやりしていた。
「床に脱ぎっぱなしやめてって言ってんじゃん。邪魔。踏むよ」
『えー……踏まなきゃいんだよ』
「違うでしょ。ちゃんと洗濯機に入れてって事よ! お母さんに言われてんじゃん」
うーとか、あーとか。相変わらずのらりくらりとかわして、怒っているのに手ごたえがない。
『じゃーやっといて』
「自分でやれ」
『冷たいコト言わないでさ~。最後の日なんだし。ねえ侑香里さん』
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