きっと君は気づかない

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 この、と毎度ながら腹が立つ。末っ子気質の甘ったれ永太は、父と母が自分の時とはえらく違ってゆるーく甘やかしたせいで出来上がった。ずるい、と何度思ったことか。  侑香里なら、こんなことをした時には、さらっと嫌味と小言をもらったはずなのに。多分、永太の服はそのうち両親のどちらかが拾うに違いなかった。  だから、絶対に侑香里はやらない。 「最後までだらしないなんて、許さないから。出てきて自分でやりなさいよ」 『うぁーい……』  締まりのない返事。けれど一応返事があった。無い時があることを思えば、ましな方だと納得する。  脱ぎっぱなしのジーンズに、長そでのシャツ。まとめて脱いだから、所々で下着が見えている。ばらしもせずにそのままだ。まったく腹立たしい。  と、端の方に服ではないものがついていた。  薄いピンクの、小さな丸い花びら。  桜、だろう。今年は、すでに四月になる前に咲き切っているところが多い。  卒業式にも入学式にも微妙に合わない桜は、今年だけ、都田(つだ)家の門出に重なった。  永太は、地方の国立大に合格した。四月からはそちらで独り暮らしとなる。引っ越しも終わって、明日から本格的に大学のある地域へ移り住むのだ。  今日、こうして脱がれた服は置いてけぼりだ。この先しばらくは、着る人もなく箪笥の奥で眠ることになる。  のんきな歌声が、やたらと耳についた。  
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