きっと君は気づかない

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 不意に、いつから、と疑問がわいた。  いつから、扉一枚を隔てるようになったのだろうか。  もちろん、侑香里の方が先に成長したのだから、自分の方から一人で風呂に入るようになったはずだ。  けれど、無邪気な弟は、時々こうやってタオルを忘れると、届く前に濡れた体でリビングに駆け出してきて……ばっと広げたタオルで捕まえたのは、すばしっこい侑香里だった。  こらーっと怒った口調なのに笑っていたのは、いつだったか。  自分より、永太の方が大きくなった頃には、こうして扉があった。それはもう、かつて一緒にお風呂に入った時間よりも、長い期間のはずだった。 「おわ。めっちゃいいタイミング。出たよ」  ぼうっとしていたら、あっという間に身支度を整えた永太が出てきた。いつの間にやら低くなっていた声で、ほい、と丸めたバスタオルを渡される。 「ちょっと、ずいぶん濡れてない?」 「あー……風呂場に落とした」 「だったら洗濯!」  突き返せば、ひょいと素直に洗濯機へ放り込んだ。床にあった服も、同じ場所へと移動していた。  んじゃどーぞ、と言いながらするっと侑香里の隣を抜けて、二階へ上がる永太。シャンプーの香りが、頭一つ半、高い位置からした。  代わりのバスタオルが必要だけれど、しばらく降りてくる用事はないから、言いつけたところで動かないだろう。諦めて、もう一度取りに行った。
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