サルときどきなっちゃん

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 春がそろそろ来ようとするころ、私は大抵忙しい。  理由は分かり切っていて、年度末だからだ。職場では、今年度の予算の計算が合わないだの、新年度の講義予定が埋まっていないだの、私のせいとは思えない突発的な仕事に忙殺される。家では上の子の学童の準備だの、下の子の……、いや、なっちゃんは今のところ、余り手がかかっていない。 「ママ、お風呂入ろう?」  私のことをよく見ているのだろう。大体、ちょうどひと息ついたとき、絶妙のタイミングで声をかけてくる。そのいじらしさに思わず胸が熱くなってくるけれど、いかんせん家に持ち込んだ仕事が多すぎて、二進も三進も行かないのが最近の私だった。 「お兄ちゃんが入った後にしようか。その方がゆっくりできるよ」 「うん!」  本当は時間稼ぎしただけの言葉に、息子にも娘にも、申し訳ない気持ちがこみあげてくる。済まん。許せ。いつかこの借りは……返せるんだろうか。  私が仕事をしているとき、なっちゃんは傍で大人しく一人で遊んでいることが多い。一応、絵本やおもちゃを持ってきてあげるのだけれど、気を遣っているのか、本当に興味がないのか、大抵反応は薄い。なので、最近は目の端で観察しつつ、問題なさそうなら、たまに頭をなでる以外は構わないようにしている。  ところが、今日はいつもと少し違った。 「ママ、これ、サル?」  私が学生に講義するために作っていたプレゼンテーションが、なっちゃんの気を引いたようだ。親ばかを承知で言うならば、うちの子は上の子も下の子も、知的好奇心が旺盛である。つまり賢い。何かを説明してあげると、目を輝かせて聞き入っている。……ような気がする。 「何でお風呂入ってるの?」 「いい質問です!」  こうなるともう、子供たちは私の学生みたいなものである。 「これはね、おサルさんがお風呂に入ると、ストレスが低減されて……つまり、のんびり出来ますよ、っていう研究なのよ」 「えー、なっちゃんも、のんびり出来ますよーー?」  ここで息子がお風呂から上がったことを知らせに来た。 「いいところで!今、なっちゃんにね、お風呂に入るとのんびりしますよってお話ししてたところなの!」 「……知ってる」 「え? なんで? ……あ、お風呂に入るとのんびり出来ることか! うん、そうだよね。知ってるよねえ」
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