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「驚くのは分かる。先生もびっくりした。だが超能力者といっても、脳獣を操れることを除けばただの高校生だ。そんなびびることじゃない。仲良く接していればほら、体育館のネットに挟まったバトミントンのシャトルを取ってくれるかもよ?」
努めて明るくした冗談に反応は無かった。ドアの裏に立つ異邦者への忌避を、教師は責めることはしない。ただどこか祈るように招き入れる。
「えー、それでは、古戸さん。入ってください」
大部分の生徒が身構える。超能力といっても扉を爆発させたりは出来ないのだが、未知の存在であることが危機の意識を無用に高めていた。
当然ながら爆音も熱も光も無く、がらりと引き戸が開いた。
肩までかかる髪が、気圧差の影響を感じ取ってなびく。身長体型に特筆すべき点はない。丹念にアイロンがけしたスカートは、校則の規定を守った長さ。良識ある人間だと証明するための努力であるはずだが、ある種偏執的なほどの端正さが、逆に普通からかけ離してしまっている。
強い眼をした少女であった。自身を受け入れきれない空間にまっすぐ切り込む視線。ぱちりとした瞳は鉄筋が入っているかのように動かない。
標準より長い脚で、大股に教壇へと昇ると、深く礼。まるで大名行列のように、生徒達が、教師までも頭を下げる。顔の標高が少女より高いことが罪であるかのようであった。
ただ一人、定が頭を下げなかったのは反抗心からではない。未だ机に居座っている脳獣が誰のものか理解したからだ。
少女、古戸凛花が静かに上体を上げる。長いまつげの影が、額に焼き付きそうな視線。時期が掴めないのか、皆はまだ90度腰を折ったままだ。荒野に二人立ち尽くし、岩の上から見下げられる。
漆黒の瞳が十六夜に陰った。笑っている。見つけた。そう言われた気がした。
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