第4話 不和

5/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
「おい、とりあえず保健室にいけよ。化膿したら大変だぞ」  冷静な助言は時として火に油を注ぐ。鎮火していた理不尽な憤激がくみしやすいと見た定の方に流れた。 「なによ!あんた肩を持つの!?仲が良いようだけどどんなことされたらそんな」 「うるせえ!保健室に行けと言ってるんだ!人に厄介事ばっかり押し付けて何が楽しい!そのまま出血多量で死にたいか!?」  怒りの炎に迎え火のように激を放つ。言葉は無駄と判断して、金切り声をより強い怒声で抑え込んだ。  そこでようやく冷静さが戻ったのか、あるいは怪我の深さに気づいたのか、急に 苦しみだした。男子と教師が駆け寄り、脇を抱えて立たせる。 「神野、すまないな。古戸さんを見てやってくれ」  去り際に教師が耳打ちする。とっさの事といえ、場の雰囲気に飲まれたのを恥じているようだった。会釈して、去って行く教師たちを眺める。数の力がなしに超能力者に相対できず、ほかの生徒達も見守る名目で出ていった。 「古戸、大丈夫か」 「ああ、別に、慣れているしね」  声はいつものものに戻っているが、額を押さえる姿は平気には思えない。 「頭、痛いのか」 「平気だ。ちょっと夕日を見過ぎたらしい」 「お前も保健室に行ったほうが」 「平気だと言っている!」  稲光。樹枝が広がるような、神経の網目のような白い光が凛花の黒目を照らし出した。すぐに目を伏せて、喉を鳴らすように声を投げる。 「処置は専門の技術者にやってもらう。明日には元通りさ。すまなかったね」  そのまま伸びる影に沈んでいってしまいそうな、寂しげな背中にかける言葉がなかった。  演技とはいえ厄介事扱いしたことに、こちらこそすまないと言えばよかったと、後々後悔することになる。人の心を守るのに、テレパシーなどなんの役にも立たなかった。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!