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「おい、とりあえず保健室にいけよ。化膿したら大変だぞ」
冷静な助言は時として火に油を注ぐ。鎮火していた理不尽な憤激がくみしやすいと見た定の方に流れた。
「なによ!あんた肩を持つの!?仲が良いようだけどどんなことされたらそんな」
「うるせえ!保健室に行けと言ってるんだ!人に厄介事ばっかり押し付けて何が楽しい!そのまま出血多量で死にたいか!?」
怒りの炎に迎え火のように激を放つ。言葉は無駄と判断して、金切り声をより強い怒声で抑え込んだ。
そこでようやく冷静さが戻ったのか、あるいは怪我の深さに気づいたのか、急に
苦しみだした。男子と教師が駆け寄り、脇を抱えて立たせる。
「神野、すまないな。古戸さんを見てやってくれ」
去り際に教師が耳打ちする。とっさの事といえ、場の雰囲気に飲まれたのを恥じているようだった。会釈して、去って行く教師たちを眺める。数の力がなしに超能力者に相対できず、ほかの生徒達も見守る名目で出ていった。
「古戸、大丈夫か」
「ああ、別に、慣れているしね」
声はいつものものに戻っているが、額を押さえる姿は平気には思えない。
「頭、痛いのか」
「平気だ。ちょっと夕日を見過ぎたらしい」
「お前も保健室に行ったほうが」
「平気だと言っている!」
稲光。樹枝が広がるような、神経の網目のような白い光が凛花の黒目を照らし出した。すぐに目を伏せて、喉を鳴らすように声を投げる。
「処置は専門の技術者にやってもらう。明日には元通りさ。すまなかったね」
そのまま伸びる影に沈んでいってしまいそうな、寂しげな背中にかける言葉がなかった。
演技とはいえ厄介事扱いしたことに、こちらこそすまないと言えばよかったと、後々後悔することになる。人の心を守るのに、テレパシーなどなんの役にも立たなかった。
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