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「恨んでいるかい?」
夕日の差す教室。他の生徒たちは逃げ出すように部屋から出ていた。春の終わりと共に強まってきた西日は二人の影を濃くし、影法師が二つ立っているように見える。
凛花の顔は逆光に紛れて見えない。定にはそれがなぜか逃げに、彼女の臆病さに見える。種類は違えど超能力者。しかし互角とはいえない。定とて軍人でも武術家でもないのだから、数で劣れば負ける。凛花が気まぐれに害意を抱けばその日が百年目である。
定にはなぜ彼女がこうも控えめなのか分からなかった。初めて会った日の傍若ぶりこそ正しい姿ではないか。一体何を恐れているのか。
しかしそれを聞き出すことはしない。定に優位な点があるとすれば、凛花は彼に興味を持っているが、彼の方はそうでもないということである。定は孤独に慣れていたし、これからも孤独なまま生きていこうと思っていた。
「別段気にしてない。人付き合いは疲れるだけだと学習できる。これも義務教育だ」
「義務教育ならもう終わっているだろうに」
「じゃあ応用編だ」
「適当だなあ。そんなんじゃ説明責任を果たせないぞ」
「そんな御大層な地位に就く気はないから大安心だ。そこらをほっつき歩く分には、世の中あんがい寛大なんだ」
「地位、ね。……君はどうするつもりなんだい?」
どうともとれる質問に眉根を寄せる。謎めいてはいても、こんな不確かな言動はしないと思っていたが。
しかし黙っていても暗い教室が明るくなるわけで無し、沈んでいく空気を少しでも盛り上げようと口を開く。
「どうって、まあ卒業したら大学にでも入るのか」
「大学を出たら?」
「就職するんだろう。面倒だけどな」
「もし、そのどこかで自分が超能力者だと気付かれたら?」
うろんな目つきで凜花を睨む。そんなことは考えたことも無い。というより考えても仕方ないことであった。そも、とっくに国家機関には能力はばれている。凜花の属する組織が何をするのか、なぜ未だなにもせずにいるのかもわからない。
定の人生は能力によって決定されてきたと言ってもよい。少年一人の腕力などより遥かに重い力だと、これまでの経験は嫌というほど教えてくれた。また流されることになっても、それならそれだ。気にしてもしようがない。
「それは俺の決めることじゃないだろ?お前の保護者にでも聞いてくれ」
「来ないよ。今はね」
「今は?」
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