第4話 不和

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第4話 不和

 凛花が来てから幾日か経ち、クラスは疲弊していった。  超能力者は恐れられる。当然ではある。今や人類に最も近しい脅威となった脳獣を操れるのだ。誰もがその危険性を理解している。  脳獣というのはナイフや拳銃といった、明らかな害意を持つ道具とは違う。目に見えず、触れる事も出来ない。こちらからはどうしようもない。あまりにも非対称な、悪霊のようなものだ。  いつでもそれを放って、気づかれずに誰かを殺すことができる。今も教室をあの樽のような肉塊が歩いているかもしれない。定以外の人間は皆そう怯えている。  一緒になった生徒達からすれば、突如徴兵されたも同然。恐怖が不満に転じるのは早かった。  しかし、まさか彼女と敵対するなどできようはずもなく。せめてもの対策は関わり合いにならないこと。消極的な排除だ。凛花は魔女狩りの被疑者であった。  席順からもそれが分かる。凛花の席は定の真後ろ。教室の真ん中の最後列。要するに定以外はプリントを回すことも回されることもない位置だ。 一言も交わさず、紙越しに手を合わせる。それさえ耐えがたいのだ。  定は転入初日に気に入られたと思われ、実際気に入られてはいるが、体の良い人身御供扱いされていた。影で脳獣係などと称されているのも聞いている。 自身の秘密を知られないために、普段から一歩引いた人付き合いをしていたが、これで完全に遠巻きにされた。困りはしないが人混みで迷惑そうにされるのがおっくうだ。  そんなわけで下校時の混雑を避けて屋上に入り浸るのが恒例となっていた。なぜか凛花も一緒である。 「すまないね。どうも僕のせいで気苦労をかけているようだ」  飄々とした、気に病んでいるふうなど欠片も無い表情で詫びる。屋上のフェンスに寄りかかって既に我が庭のようなくつろぎぶりだ。 「いいよ。お前ほどじゃなくても面の皮は厚いんだ」 「それはいけない。僕でさえ胸が張り裂けそうなのにそれ以下といったら、君、憤死してしまうよ」 「その時には首塚でも立ててくれ。祟りなんてしないからさ」 適当に返しながら壁に頭のてっぺんをつけて、目が空色に染まるまで眺める。 実際傷ついてはいない。他人と文字通り見える世界が違うと分かってからこのかた、孤独である事に心を慣らしてきた。話す量なら凛花という相手ができた分増えているほどだ。
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