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お願い1 チャンス到来?
外はあいにくの分厚い雲が覆い、どよんと湿度を含んだ空気がせっかく朝からセットした髪をへにゃりとさせる。
そんな憂鬱な気分を立て直すと、結花は自分自身に言い聞かせるように心の中で呟いた。
『今日もがんばろう』
そんな気合など誰も知らないだろう、周りの人たちに挨拶をしつつフロアへと足を踏み入れる。
そして目的の人を見つけて、更に笑顔を作った。
「晃先輩!今日もよろしくお願いします!」
(しまった……。勢いよく行き過ぎた……)
ついから回ってしまった自分に、すぐに心が折れそうになるのを何とか抑えるとチラリと彼をみた。
「なあ。小松。先輩じゃないだろ……」
呆れたようなその彼の声に、結花は小さく言い直す。
「申し訳ありません。樋口主任……」
「お前だってもう2年目だろ?それに俺に着いてから半年たつだろ。しっかりしろよ」
厳しい言葉と裏腹に、優しくポンと叩かれた頭を結花はそっと手で押さえると、そのまま席を離れたその人を見送った。
「結花!!結花ってば!」その声に結花はハッと我に返った。
「え? 千香!」
「もうとっくに樋口主任いないわよ」
腕を組んで小さくため息をついた、同期の結花の言葉に結花も頷いた。
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