お願い5 今度は俺が

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結花は自分の中で何かが音を立てて崩れるのを聞いた気がした。 後ろから掴まれた腕を強引に振りほどくと、晃を睨みつける。 「大事な部下なんかになりたかった訳じゃない。私はただあなたが好きなだけ。冗談でずっと好きって言ってたって本気で思ってたんですか?」 涙を目にいっぱい溜め、自嘲気味な笑みを浮かべた結花に晃は言葉を失った。 「俺は……」 「もう、いいです。きっぱり諦めます。LINEもしません。大脇さんとお幸せに。もう構わないでください。これ以上みじめにさせないで」 「大脇?」 「大脇さんから、主任と付き合う事になったってメール貰いました」 とうとう零れ落ちた涙を拭う事もなく結花は晃を見たあと、雨の中に出て行こうとした。 そこまで言っても、まだ晃は結花の手を放してくれない。 「手を放して。濡れようが私の勝手でしょ?主任には関係ない」 初めて見せるだろう、こんな自分を。 そう思うも、結花はどうでもよかった。挑むように晃に睨みつけて涙をこらえる。 「仕事はきちんとします。でももうlineも何もしません」 その言葉に、一瞬晃の力が緩んだのを結花は見逃さなかった。 一瞬の隙を付くように結花は雨の中に飛び出した。 振り返ることもせず、ただ駅に向かった。 コンビニに寄ると傘とタオルを買い、電車でジロジロ見られるのも気にせず家に帰った。 (言っちゃった……。終わった) 玄関のドアを開けると結花はズルズルと座り込んで手で顔を覆った。
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