あれがカイブツだよ

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あれがカイブツだよ

 少し寒い朝でした。春の最初の季節だというのに、リーシャはひどく冷たい地面に目を覚ましました。灰色に囲まれた部屋の中で、うっすらと瞳に映る、鈍い光。  目を開けたらあの温かな部屋にいるのではないか。寂しい妄想は、現実の辛さを掻き立てます。  伸びをしようにも身体はばきばきと鳴ります。あまりにも恐ろしい音でした。真っ暗な部屋、真っ黒なカイブツが蠢いているように見えるでしょう。  相変わらず重い尻尾に、どんよりと気分も下がります。  外から何か聞こえました。  大勢の人の声です。昨日痛めつけられたばかりなのに、と、リーシャは緊張と恐怖に身を固めます。いつもより多いようで、足音はたくさん。  見ると、大きな車輪のついた台に、檻の部屋が置いてありました。頑丈そうな檻が上に。  昨日の大男たちがやって来て、この部屋の鉄格子を外します。手には鎖と棒を持って、再びリーシャを怒鳴り始めました。「バケモノ野郎、黙ってねえで歩け!」「やっぱ悪魔なんじゃねえのかコイツ」  荒々しく浴びせかけられる言葉。 「ふん、生まれたときからコイツは悪魔なんだよ」  ばちん、ばちんと鞭打たれて、ひどい言葉にリーシャは瞳を向けました。  珍しい、リーシャの反応に、大男達はびくりとして動きを止めます。長い触覚が暗闇に揺れて。 「ア…………ク…マ…………?」  発した、ギコギコとした醜い声。それは金属が擦れ合うような耳障りな声でした。声とは呼ぼうにも呼べない、唯一の感情の発信源にして最悪の印象でした。 「カイブツの分際でほざくな!!」  一際力強く、棍棒で殴られました。固い皮膚を伝わる鈍い痛みに、リーシャは成す術もなく頭を垂れました。  人々に反抗すればさらに、何かが遠くへいってしまう気がしたのです。  鎖で身体中を縛り上げられて、苦しい状態で外の小さな檻に入れられました。狭く窮屈な四角の中で、リーシャはカイブツになって初めて外の空気を吸いました。  緑の匂いが強く、鼻を抜けます。  
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