あれがカイブツだよ

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 (いばら)の道を進んで。車輪が穴や石を踏みつける度に大きく揺れました。馬が鳴きます。大男達は、前方で笑い声を上げています。そしてひたすら、規則正しい車輪の音が続いてゆきました。  森は明るさを増して、色鮮やかな新緑が目立つようになりました。花や鳥、虫の様々な呼吸に耳を澄ませます。初めて見るものばかりで、リーシャは少し嬉しくなりました。朝露に光る草むらに、木漏れ日が反射して宝石のようです。  急に視界が眩しくなりました。とうとう、長い長い森を抜けたのです。強く吹き付ける風、真っ青な空――――。  いつか宮殿の窓辺から眺めたあの空と同じです。温かい風も、太陽も。まるでリーシャが森を抜けたのを歓迎しているかのように優しさに満ちています。  溢れる憧れに、いつの間にか発する"音"。それはあのギコギコとした嫌な音ではなく、"音楽"のような心地よいものでした。金属音の音楽、小さな鐘が連なったようなか細い音色。頼りなくも美しい旋律でした。  誰の耳にも届いてはいません。よく耳を澄ませなければ聞こえないほどのものだったのです。    平和そうに続く麦畑、果物畑、色々に広がっています。宮殿も見えました。  美しい風景に見とれながら進みます。その間、農民も作業を止めて、変わり果てた王女を顔をしかめてうかがっていました。  城下町には既にたくさんの人だかりができていました。出店を眺めるカイブツ、カイブツを野次馬する人々。――――彼女の嬉々とした瞳に陰りが。未知のものとの遭遇よりも、嫌悪の視線が痛いほどに突き刺さります。  私は町を見ているのに、その町はあまりにも私に冷たい――――。 「うげえ気持ち悪ぃ」「なんだアイツ」「臭いわ」  老人は指を指して叫びます。「悪魔じゃ……悪魔が帰って来た……!」  中には石を投げつける者もいました。リーシャは、深い悲しみを背負いながら城下町で見世物にされて行くのです。徐々に通路は人で一杯になって、がやがやと騒音に包まれました。  行き着いた先は噴水のある広場。  小高くなっている平地に檻は投げ落とされました。
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