カイブツと少年

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カイブツと少年

   醜い自分の姿をまじまじと見つめられ、リーシャは身体を縮めます。鎖がじゃらじゃらと音を立てると、少年は一層不思議そうに顔を傾げました。  少年は怒鳴りません。気持ち悪がるどころか、自ら檻に近づいてくるのです。  この真っ黒なカイブツを前にしてもちっとも怖がりませんでした。  リーシャは何がなんだか分からなくて、ただただ、少年を見ていました。優しそうな眼差し――――交差すると、にっこりと微笑んだのです。   「もうすぐ晩ごはんの時間だから、早く帰ったほうがいいよ! 夜になるとね、お化け魔女が来て、悪い子をカイブツにしちゃうんだ」  カイブツ――――。  リーシャは無邪気な少年の言葉に、チクリと胸が痛みます。少年は、"悪い子"と言いました。それは自分のこと、紛れもない真実なのだ――――。  タッタッタ、と。少年は噴水の縁に立って、明かりの増してきた月を見上げました。 「でも大丈夫! ぼくが守ってあげるから!」  リーシャは驚きました。  少年はなおも続けます。 「ぼくは王子様なんだ! この国はぼくの国なんだよ。だから、みんなを苛めるカイブツはぼくがやっつける!」  拳を空に掲げて、高らかに。 「きみがカイブツに食べられないように、ぼくが守ってあげるよ!」  守る? 私を?  私、醜いカイブツなのに――――。 「ミロっ!!」  悲鳴のような鋭い声が響きました。  少年はびっくりして振り返ります。そこにいたのは、ドレスをまとった女王様。側にはお付きの騎士と、もう一人少女が。どうやら少年は、迷子だったようです。 「ねえねえ、アンとママも見て! 不思議ないきものがいるんだ!」  アンと呼ばれた女の子は、リーシャを一瞥して言いました。 「バカねミロ。そいつ、カイブツよ? 近づくと食べられちゃうんだから」 「え……? カイブツ?」  少年――ミロはリーシャをもう一度見つめます。 「そうよ。ミロ。パパもママも昔、そのカイブツに苦しめられたわ。アンの言うとおり、近づくと危険よ!」  しかし恐怖心が勝ったのでしょう、女王も、王女アンも、リーシャに近づきません。騎士は恐る恐る、檻に歩み寄りますが、距離がありました。  その時、ミロは噴水の縁から下りて、これまでにないくらい、カイブツに近寄りました。
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