四、即興一発芸

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「……トランプ……で、一発芸って無理か」 「トランプ……なんで持ってきたの?」 「俺、いま、トランプでピラミッド作るのにハマってて。プラスチックで出来てるんだこのトランプ。暇な時にやろうと思って……すっかり忘れてた」  暇な時って……歓迎会で一人黙々とピラミッド作るとか、ハート強すぎでしょ。と言うか、歓迎会で孤独アピールしてどーするつもり? ジャックナイフなのかな? 『俺に触れるな』的な?   俺がガン引きで顔を歪めてるのを見て、慌てて凌君が付け加えた。 「あ、違う違う! ここで、するつもりじゃないよ? 家から出てくる時に、ポケットにしまったのを忘れてたって言ったの!」  凌君はちょっと焦った顔で手をブンブン横に振った。 「あぁ、そう。……なるほど」  俺は歪めた顔を笑顔の位置まで各パーツを移動させる。他の連中がお笑い芸人のネタをしようと相談しているのか、みんなで携帯の画面を見て動画でネタの練習をしだした。 「どうする?」  トランプねぇ……。  俺は小学生の時に買ったトランプマジックの本に書いてあったネタを思い出した。当時よく一人で部屋に篭り練習したものだ。  根暗なのは俺か……。  自分のツッコミにクスッと笑い、凌君にマジックの内容を耳打ちしてネタ合わせした。凌君はあくまでサポート役。実際マジックをやるのは俺だから、練習なしの本番でも大丈夫ってわけ。  久しぶりだけど、上手くいくかな?  家族や学校の友達に披露する前の何とも言えない高揚感を久しぶりに味わう。最初の島のお寒い一発ギャグが終わる。その次の島も。みんないきなり振られたワリにはそれなりの完成度。笑えるか笑えないかは別の話だけど。
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