二、宮坂という男

3/5
前へ
/151ページ
次へ
「そっちのお前、名前は?」 「宮坂……です」 「フルネーム」 「宮坂、春……春紀……です」 「ふんふん。ハルキって読むのか。なんだ、腹減って力出ないのか?」  名前を確認した途端、先輩の声が優しくなった。そのせいか、「腹減って」の言葉にか、宮坂は「ハッ」となって、すかさずお腹をさすりだした。 「あの、お腹痛くって……」  こいつ、先輩にも仮病使う気だ。なんてずる賢いんだ!   宮坂のやり方にますます呆気に取られていると、先輩がいきなり宮坂に突進した。突進したってのは大げさだけど、そんな勢いだった。俺もビビったけど、宮坂は「ヒッ!」って声を上げ、全身の毛を逆立てた猫みたいにビクッとなった。 「大丈夫か? 熱でもあるのか?」  大きなグローブみたいな手が、宮坂の顔半分を隠す勢いでベチャッと当たる。  あんなのに叩かれたら鼻が潰れちゃうよ。  宮坂も相当ビビってるようだった。ベッドの上、後ろ手で体を支えたまま硬直してる。先輩は宮坂の顔半分を触りながら言った。 「ん? うーん……よく分からんな。よし、保健室に先生が居るかもしれないから、俺が連れてってやろう」  「あっ、や……大丈夫です! 寝てたら良くなるから……」  あたふたしてる宮坂。 「遠慮するな」  ゴリラ先輩は宮坂の足の下に丸太のような腕を入れると、軽くヒョイと横抱きにしてしまう。 「って……ええええっっ!」  あーあ……。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

723人が本棚に入れています
本棚に追加