一、一〇六号室

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「……ここだ」  割り振られた部屋番号のドアに辿り着き、俺は肩に掛けた大きめのバッグをもう一度「よいしょ」と掛け直した。受付で渡された冊子をもう一度見る。 『一〇六:松平凌(まつだいらりょう) 宮坂春紀(みやさかはるき)』 『松平凌』そして、自分の名前の横に並ぶ、『宮坂春紀』の名前を頭の中で繰り返す。  関東のある県に位置する私立徳院学園。ここは全寮制の進学校であり、スポーツ名門高校としてもとても有名だ。大学進学や部活動に専念したい普通科の生徒も多数入寮している。 『共同生活を営む中で、自立心と仲間を大切にする心を育む』がモットーらしい。   そう。今日から知らない奴との相部屋生活が始まる。最低一年間は同じ部屋で過ごさないといけない。  性格のいい奴だったらいいな。いや、最低ラインとして、汗臭くなくて、スナック菓子をポロポロ食い散らかしても平気な神経の持ち主じゃないのなら、あとは我慢しよう。  俺は人見知りだけど、最初はきっと誰でもそうだし。もし相部屋の奴が極度の人見知りなら、俺から歩み寄ってもいいし……。俺は、そこまで……、うん、極度って程じゃないし……。 「…………」  ドアの部屋番号を見上げながらグルグル思う。  名前から受ける印象はとても好ましい。上品そうだし、穏やかそうでもある。春という漢字がまたいいじゃないか。でも過剰に期待するのは危険だ。最初は慎重に相手を見極めた方がいい。相部屋の奴といきなり険悪にだけはなりたくない。人は見かけによらない。どこに地雷があるか分からないからな。  ドアノブを掴もうとして思いとどまる。  もしかして相部屋の奴は、もう部屋の中にいるのかもしれない。ノックをした方がいいよな。やっぱりマナーは大事。最初が肝心だ。親しき仲にも礼儀ありだしな。 「……すーっ……はぁ~~」  俺は軽く息を吐いて、冊子をバッグの外ポケットへ突っ込むと、右手で拳を作りドアを二回ノックした。
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