一、一〇六号室

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 コンコンと軽めの音を立てるドア。  「はーい、ちょっと待ってぇ~」  ドアノブを握ると少しこもったような声が返ってきた。部屋の中からのものだ。つまり、相部屋の相手。 ……え? 待って? って……どゆこと?  着替えでもしていて「ドアを開けるな」という意味だろうか。でも、まさか裸でいるわけじゃないだろうし、声は高かったけどここは男子校の寮。女子が中にいるわけじゃあるまいし?  でも、とりあえず「待って」とお願いされたので、しばらく待ってみることにした。  一分経っても、二分経っても、三分経ってもドアノブは動かないし、「いいよー入ってー」という声も聞こえない。 「……?」  俺は首を傾げながらドアノブをゆっくりと回した。鍵は掛かっていなかった。カチャリと小さな音を立ててドアが開く。  そーっとドアノブを引いて、半分ほど開いたドアに首だけ覗かせて部屋の中を見た。  部屋の真ん中に人がいた。俯いた真剣な横顔。手には携帯。 ……ゲーム?   あぐらをかいて背中をまるめたそいつは、俺がドアを開けた事も気づいてないようだった。物凄く集中しているようだ。……ゲームに。  こいつが俺のルームメイト? 宮坂春紀? 小柄で華奢で、色も白い。「名は体を表す」とはよく言ったものだけど、入寮初日に荷解きもしないでゲームに夢中な姿は、ハッキリ言って唖然の一言だった。  彼の周りにはダンボール箱一個と、小さめの旅行バッグ。  荷物……それだけ?   俺の親があらかじめ送った荷物は入って正面の壁。窓際のエアコンの下に積んであった。大きなダンボール三個。そのダンボールと、部屋の真ん中で俯き口を尖らせ、必死にゲームをしている奴を交互に見て戸惑っていると、そいつが顔をガッと上げた。 「かはっ~、くっそぉ~」  間抜けな声を上げたそいつは、隣に置いた旅行バッグに携帯を持った腕を伸ばし、バタッと倒れこんだ。
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