一、一〇六号室

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「…………」  俺の足に気づいたのか、倒れた姿勢のままで徐々に上がる顔。  上目遣いの視線とバチッと目が合う。まん丸な目と「あは」と笑いだしそうな口元。細い顎。かぶさり気味で特徴的な上唇。そのうっすら微笑んでいるような口元が動いた。 「どうも」 「ど、ども」  さっきも思ったけど、声が高い。声変わりしたけど、あまり低くならなかったパターンだろうか?  突っ立ったまま、寝転がっている……、多分『宮坂春紀』を見下ろしていると、宮坂は「よいしょ」と呟きながらのそっと立ち上がった。  携帯のボタンを押してゲームを切ると、ポケットへ携帯を突っ込む。それから左手で顎を支えると、左右に首を振って、ポキポキと軽快な音を鳴らした。  黙って見ていると、ぷらんとその手を落とす。 「一〇六の住人さん?」 「あ、うん。俺、……松平」  ゆるい感じの立ち姿で話しかけてくる宮坂。俺より背が低い。背が低いくせに姿勢も悪いから、いっそう小柄に見える。何センチくらいだろう。一六十くらいかな?  小さいくせに……宮坂の妙にリラックスした雰囲気にタジる俺。 「松平君ね。俺、宮坂君。よろしくね」  ダランと垂れていた腕がスッと上がり差し出された。  手は丸かった。手の平が大きくて指が短い。なんて丸い手なんだと思った。丸くて小さい。とても愛嬌のある手の形だ。 「あ、うん。よろしく」  その手が握手の為に差し出されたのだと一秒後に気づいて慌てて手を握る。  ギュッと握った手は見た目の通り小さくて、とても柔らかかった。スポーツなんてした事ない様なプニプニとした柔らかさ。手を使わないスポーツもあるから、もしかして陸上の短距離走かもしれないけど。でもきっとそれも違う。なぜって握った手も、頬も透き通るように白かったから。
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