一、一〇六号室

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「ねぇねぇ」 「え?」  突然後ろから話しかけられてビックリして振り返る。宮坂はさっきの姿勢のまま、上目遣いで俺を見ていた。 「今日の夕方からある歓迎会出る?」 「あ、うん」 「やっぱ出るかぁー。出なきゃまずいよね……きっと」  嫌そうな口調で、うなだれぼやいてる宮坂。  出なきゃまずいよねって……。今日までに入寮しなきゃいけないし、今日の夜は新入生歓迎会がある事も一ヶ月も前から分かってる事だし。何を言ってんだ? 「まぁ……きっと、みんな自己紹介とかするだろうし、今後の為にも出た方がいいと思うよ?」 「それがやなんだよねー、自己紹介。名前言ってくだけじゃん? それに人多くって賑わいでる場所ってそもそも苦手なんだよね」  情けない顔でションボリしてる宮坂。「嫌だからやりたくない」が、まかり通るのは幼稚園児までだよ。今時の幼稚園児でも厳しいかもしれない。って内心思ったけど、あんまりションボリしてるからつい言ってしまった。 「じゃあ、具合が悪くて寝てます。って言っておこうか?」 「お! いい? 悪いねぇ~」  宮坂の表情がガラリと変わった。椅子からピョコンと飛び起き、満面の笑みでニコニコしてる。調子のいい態度に呆れているとダンボールを覗くように背を伸ばし言った。 「荷物手伝おっか?」 「え……あ、いいよ? あとは……」 「そ?」  引くの早っ! 最初から手伝う気なんてなかったんじゃないかと思える様子。呆気に取られていると、宮坂は機嫌良さげにベッドへゴロンと横になった。  また携帯を弄りだす。  やっぱりこいつ、ただの調子いいだけの人間なのかも?
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