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ーー神月家のリビング。
さわやかな朝日が差し込み、おいしそうな匂いが広がる。
「おはようっ!」
食卓へ現れた亮に、元気よく挨拶をしたのは、三つ年上ーー二十歳の亮の姉、神月 愛理。髪の色は妹と同じ茶色だが、長さは背中の半分ぐらいまであり、ふんわりと癖がついている。
今は一緒に暮らしていない両親の代わりに、亮の保護者として、色々と面倒を見ている。そんなしっかり者の姉だが、美青年にはめっぽう弱い。八歳年上のフィアンセがいて、彼とは大学卒業と同時に結婚する予定。
彼女を一言で表すと、『きゃぴきゃぴ』という言葉がよく似合う。
「おはよう、お姉ちゃん」
朝食の用意を終えようとしている姉に元気よく挨拶をしながら、亮は自分の席へ座った。目の前にたくさん並んでいる料理の匂いをかぎ、目をキラキラ。
(うわ、おいしそうだな。いっぱい食べよう!)
冷たいミルクで満たされたグラスをテーブルに置き、愛理は妹の正面に腰掛ける。
「さぁ、食べましょう」
「いっただっきまーす!」
ふたりそろってそう言うと、それぞれ好きなものに手を伸ばし、さっそく食べ始めた。
トーストにハチミツを塗りながら、愛理が、
「あ、そうそう。今日、六時に正貴さんも来るって」
ベーコンを運ぶ手を止め、亮は急に大声を上げる。
「えっ、本当に!? 嬉しいなぁ」
その人の癖を思い浮かべた彼女は、すぐに心配そうな顔なり、
「でも、大丈夫かな? よく時間、忘れちゃうみたいだから」
妹の心配ごとに、姉は意味あり気に微笑み、
「確かに、時間は忘れるわね。でも、そこがまたいいところなのよ」
さらっとのろけてみせて、正貴の口ぶりを真似る。
「『亮ちゃんのためなら、がんばって覚えておきます』って言ってたわよ」
「やっぱり優しいね、櫻井さんは」
「それは私の愛する人ですもの、当然よ」
自信たっぷりに答えた、いつも通りの姉に、妹は幸せな気持ちで一杯になる。
「遅れないように帰ってくるね」
「腕によりをかけて、料理しちゃうわよ」
ガッツポーズした愛理に、亮は笑顔で、
「うんっ、楽しみにしてる」
そしてまた、それぞれ食事を再開。
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