ロック界の王子様

1/3
前へ
/382ページ
次へ

ロック界の王子様

 亮と美鈴が靴を下駄箱へ入れようとすると、頭上から人を引きつけるような澄んだ声が響いた。 「よう、亮、春日」  彼女たちが振り返ると。そこには、朝から不機嫌な顔をした背の高い美青年が。彼の名は、白石 祐、十七歳。銀色で真っ直ぐなサラサラの髪は、肩より少し長め。切れ長で澄んだスミレ色の瞳からは、彼の意志の強さが感じ取れる。   誠矢とは小学校からの親友で、亮とも小さい頃、よく一緒に遊んでいた。中学の三年間は、亮と祐は一度も会わなかったが、同じ高校に入学してから、また付き合いが始まった。  祐は最近、人気急上昇中のロックバンドのボーカリスト。アイドル的に売り出していて、『ロック界の王子様』という異名まで付いている。なぜなら、彼の衣装はいつも王子様そのものだからだ 彼を一言で表すなら、『不機嫌』。しかし、それがかえって人気の秘密らしい。  ウッキウキの亮が、 「祐、おはよう」 「白石、おはよう」  美鈴が少しだけ微笑みと、祐は突然ぼそっと、 「どいて」 (毎朝なんだから、そろそろわかれよ)  短い言葉の意味を理解し、美鈴は素早く避けた。 (あいよ)  がしかし、亮はわからず、目をぱちぱちさせただけ。 「え……?」 (土管?)  思いっきり聞き間違っている幼なじみに構わず。祐が自分の下駄箱を開けると、中からたくさんの手紙とプレゼントが亮の頭上に降り注いだ。 「えぇっ!? な、何っ!?」 (土管が降ってきた!?)  びっくりして飛び上がった亮に対し、祐は不機嫌なため息。 「………」 (お前、驚きすぎ)  カバンから取り出した紙袋をぱっと広げ、プレゼントと手紙を中へ入れ始めた。 自分の肩に乗っていた手紙を手に取り、亮は祐に、 「手伝うよ」  祐はちらっと視線だけくれて、 「いい」 (面倒になことになるだろう)  彼女の手から手紙をすっと抜き取った。 「忘れるなよ」  作業を再開した祐の指摘に、亮はあることをふと思い出した。  ーーーー以前にも、こんな朝があり。大変だと思い、祐を手伝っていた。そして、彼がいなくなった途端、たくさんの殺気立った女子たちに囲まれ、 『自分たちの出した手紙やプレゼントに、勝手に触るな』  と、文句を言われてしまったのだ。その時は、美鈴のお陰で大事には至らなかった。
/382ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加